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続・自社株評価の見直しについて考える ~現時点での議論まとめ~

現時点までの議論の進捗をまとめます

以前、当ブログで「取引相場のない株式の評価 抜本的見直しの衝撃」という記事を書きました。
会計検査院の指摘を受けて、非上場株式(自社株)の相続税評価のルールが見直される、という話です。

あれから議論はかなり進みました。そして、論点が当初想定していたよりもずっと大きくなっています。
なんと「類似業種比準方式そのものの存廃」が論点として盛り込まれだしています。
これはちょっと衝撃ですね。詳しく中身をみていきます。

※2026年8月19日現在、国税庁の有識者会議は議論の途中であり、確定した変更はまだ何もありません。
新しい資料が公表され次第、追記していきます。


先に結論

  1. 国税庁の有識者会議は、2026年4月から7月までに4回開催されました。
  2. 議論は「計算式の微調整」ではなく、「類似業種比準方式を残すのかどうか」というレベルに移っています。
  3. 具体的な改正案は、まだ何も公表されていません。通達の改正案もパブリックコメントも適用時期も、現時点では出ていません。
  4. スケジュールは、今秋に方向性 → 令和9年度税制改正大綱 → パブコメ → 早ければ令和10年(2028年)適用、という流れが想定されています。

前回記事から何が変わったか

変化①:論点が「調整」から「存廃」に

前回記事の時点では、「類似業種比準価額が純資産価額に比べて低すぎる」という乖離の問題が中心でした。
比準要素の見直しや斟酌率の調整といった、計算式レベルの話です。

ところが第4回会議(2026年7月3日)で、国税庁は委員に対して次の6項目について意見を求めました。
(第4回会議の国税庁配付資料に記載された内容より抜粋)

  • 抜本的な見直しも視野に検討すること
  • 評価方式の一本化について検討すること
  • 類似業種比準方式の在り方をどう考えるか
  • 純資産価額方式を基本的な評価方式として維持しないことをどう考えるか
  • 配当還元方式の対象となる株主の整理
  • 資産管理会社は純資産価額方式で評価することをどう考えるか

その中で「類似業種比準方式の在り方」「純資産価額方式を基本的な評価方式として維持しない」という言葉が、当局側から出ています。
計算式をいじるという話ではなく、評価の体系そのものを組み替える可能性が正面から議題に上がった、ということです。

変化②:学者・実務家と経済界で意見が正面から割れている

第2回会議(5月11日)では、租税法・会社法の研究者とM&A実務の専門家が資料を提出し、現行の評価方式の理論的な裏付けそのものに疑問を投げかけました。
企業価値評価の実務では類似業種比準方式のような手法はほとんど使われていない、という指摘です。

一方、第3回会議(6月4日)では、日本商工会議所と日本税理士会連合会が資料を提出しました。
日本商工会議所は、中小企業の事業承継への影響を強く訴え、株式評価と税負担は切り離せないとして一体的な議論を求めています。
継続して事業を営んでいる会社を、解散価値である純資産価額で評価することへの問題提起もなされました。

つまり、「評価を実態に近づけるべき」という方向と、「事業承継の実務を壊すべきではない」という方向が、まだ噛み合っていません。

変化③:問題視されているスキームの類型が増えた

第1回会議では、評価額を圧縮する手法として3つの類型が示されていました。
第4回会議の資料では、これが8つの類型に拡充されています。国税庁が「問題視している手法」を、具体的に列挙した形です。
第4回会議の配付資料(別添2)に挙げられている8類型は、次のとおりです。

  1. 子会社の会社規模の操作による株価の圧縮
  2. 配当還元方式を利用できる株主の作出
  3. 会社規模の操作による株価の圧縮(純資産価額方式から類似業種比準方式へ)
  4. 子会社からの循環貸付による親会社株価の圧縮
  5. オペレーティングリースを活用した株価の圧縮
  6. 株主構成の操作による配当還元方式の適用
  7. 第三者を一時的に介在させた評価額の圧縮
  8. 法人が貸付用不動産を購入し、3年経過後に株式を移転

※ 各類型の具体的な仕組みについては、本記事では詳細を省略します。
資料には、それぞれ評価額の圧縮額と税額の減少額まで記載されており、大きいものでは評価額で100億円規模のものも挙げられています。

特に8番は、純資産価額方式の計算上、法人が取得して3年以内の不動産は通常の取引価額で評価するという現行ルール(財産評価基本通達185、いわゆる「3年しばり」)が問題視されていることを明らかにしました。ルールを守った上での行為が事例として挙げられている以上、何らかの見直しが入る可能性は意識しておく必要があります。


有識者会議のこれまで

開催日主な内容
第1回2026年4月20日会計検査院の指摘の整理、国税庁独自調査の結果、見直しの「4つの観点」、圧縮スキーム3例
第2回2026年5月11日研究者・M&A実務家からのプレゼンテーション
第3回2026年6月4日日本商工会議所・日本税理士会連合会等からの意見表明
第4回2026年7月3日国税庁による論点整理、6項目の意見照会、スキーム8類型の提示

座長は佐藤英明教授(慶應義塾大学大学院法務研究科・租税法)、委員は13名です。研究者に加えて、日本商工会議所、日本税理士会連合会、M&A実務の関係者が参加しており、オブザーバーとして中小企業庁と全国商工会連合会が入っています。

なお、第1回会議で国税庁が示した見直しの「4つの観点」は、①異なる規模区分の会社の株式を取得した者の間の公平性の確保、②金利変動など今日的な観点からの見直し、③評価額の恣意性・操作性の排除、④M&Aによる第三者承継の増加を踏まえた評価、の4つです。


今後のスケジュール

第4回会議の議事要旨で、事務局は次のように述べています。

  • 見直しのたたき台となる事務局案は、次回(第5回)に示したい
  • 今回の見直しは税制改正プロセスを経て行う
  • 今秋を目途に一定の方向性を示せるよう進めたい

ここから先は、令和9年度税制改正大綱への反映、改正通達案のパブリックコメント、という段階を踏むことになります。
適用開始は、早ければ令和10年(2028年)からという見通しが報じられています。

なお、具体的な適用開始時期は、現時点では何も公表されていません。
ひとつ押さえておきたいのは、財産評価基本通達は法律ではないため、国会での審議を経ずに改正できるという点です。
納税者や実務家が意見を述べる機会は、実質的にはパブリックコメントの段階に限られます。
だからこそ、有識者会議の議論の透明性が問われている、という指摘も出ています。


オーナー経営者が、いま確認しておきたいこと

改正の可能性を理由に承継を急ぐことは、私はおすすめしていません。
事業承継は本来、後継者の育成、株価対策、資金準備、関係者の調整を含めて数年がかりで進めるものです。
制度改正のニュースから逆算して数か月で整えられるものではありません。

ただ、「いつでも判断できる状態」を作っておくことには、大きな意味があります。
実際の改正案が出たときに、影響を即座に測って動けるかどうかで、選択肢の幅が変わってくるからです。

具体的には、次の4点です。

1. いまの自社株の評価額を、数字で把握しておく

「だいたいこのくらい」という感覚と、実際の評価額が大きくずれているケースは本当に多いです。まずは現行ルールでの評価額を確定させることが出発点になります。

2. 類似業種比準価額と純資産価額の両方を出しておく

この2つの差が大きいほど、今回の見直しで評価額が動く余地も大きくなります。自社がどの程度の影響を受けうるのかは、この乖離幅を見ればおおよそ見当がつきます。

3. 持株会社・資産管理会社を使っている場合は、構造を整理しておく

第4回会議で示された8類型に近い構造になっていないか、確認しておく価値があります。該当したから直ちに問題があるという話ではありませんが、改正の影響を受けやすいことは事実です。

4. 事業承継税制の特例措置の期限を確認しておく

法人版事業承継税制の特例措置は、令和9年12月31日までの贈与・相続が対象です。評価の見直しとは別の時間軸で期限が迫っている点は、あわせて見ておく必要があります。


次回の更新について

第5回会議で、国税庁の見直し案のたたき台が示される予定です。ここで初めて、具体像が見えることになります。
資料が公表され次第、記事にしていきたいと思います。


出典

  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(第1回〜第4回 資料・議事要旨)  https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm
  • 会計検査院「令和5年度決算検査報告」(2024年11月公表)
  • 相続税法22条、財産評価基本通達6項

本記事は2026年8月19日時点で公表されている資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。有識者会議の議論は進行中であり、改正内容・適用時期を含め確定した事項ではありません。

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