取引相場のない株式の評価 抜本的見直しの衝撃(前編)

2026年4月20日、国税庁において「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合が開催されました。
これは、昭和39年(1964年)の財産評価基本通達制定以来、約60年ぶりとなる非上場株式の相続税評価ルールの抜本的見直しに向けた動きです。
日本経済新聞の報道によれば、2027年度税制改正大綱への反映を経て、2028年(令和10年)1月以降の相続から新ルールの適用を目指すとされています。
中小企業の事業承継・相続支援を行う税理士として、また、実際に非上場株式の評価実務に携わる者として、この見直しの動向は極めて重要です。
今回は、国税庁が公表した有識者会議の資料(2026年4月20日付)をもとに、見直しの背景・論点・今後の方向性を整理してみたいと思います。
1. 見直しの発端──会計検査院による2つの指摘
■ 会計検査院の令和5年度決算検査報告
この見直しの直接的な発端は、2024年(令和6年)11月6日に内閣へ送付された会計検査院の「令和5年度決算検査報告」です。
会計検査院は、令和2年・3年分の相続税・贈与税申告から無作為抽出した1,600件(評価会社延べ1,785社)を対象に検査を行い、以下の2点を指摘しました。
指摘① 原則的評価方式における評価額のかい離
- 類似業種比準価額の中央値は、純資産価額の中央値の27.2%にとどまる
- 純資産価額に対する申告評価額の割合の中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍
- 会社規模が大きいほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向
指摘② 配当還元方式の還元率
- 配当還元方式の還元率(10%)は、通達制定当時(昭和39年)の金利水準を参考に設定されたもので、その後の金利低下の中で見直されていない
- 現在の金利水準と比べて相対的に高い率となっているおそれ
会計検査院は、これらを踏まえ「評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要」との所見を述べています。
■国税庁による追加検証(令和4・5年分)
今回公表された有識者会議資料(第1回)では、国税庁が検査院の指摘を踏まえて令和4年・5年分の申告データ(700社)で再検証した結果も示されています。
| 項目 | 検査院(R2・3年分) | 国税庁(R4・5年分) |
|---|---|---|
| 類似業種比準価額/純資産価額の中央値 | 27.2% | 26.1% |
| 純資産価額に対する類似業種比準価額の割合 0.5倍未満の会社 | 77.9% | 77.6% |
| 純資産価額に対する申告評価額の中央値(大会社) | 0.32倍 | 0.44倍 |
| 同(中会社) | 0.50倍 | 0.50倍 |
| 同(小会社) | 0.61倍 | 0.60倍 |
「同様の状況が確認された」というのが国税庁の結論です。もはや単発的な現象ではなく、構造的な問題であると位置づけられたと言えます。
2. かい離が生じている2つの要因
有識者会議資料では、類似業種比準価額と純資産価額の間にこれほどのかい離が生じている原因として、次の2つが分析されています
要因① 1株当たり配当金額の「機能不全」
分析対象700社のうち、577社(82.4%)が評価直前2期において全く配当を支払っていないという実態が明らかになりました。
類似業種比準方式では配当・利益・簿価純資産の3要素で比準しますが、配当(Ⓑ)がゼロの場合、実質的に比準要素の係数が2/3倍となり、評価額が大きく下がる構造となっています。
資料では、仮に利益と簿価純資産が類似業種平均と同水準の会社で配当がゼロの場合、評価額は次のようになると試算されています。
- 大会社:類似業種平均株価の 0.47倍(2/3 × 0.7)
- 中会社:類似業種平均株価の 0.40倍(2/3 × 0.6)
- 小会社:類似業種平均株価の 0.33倍(2/3 × 0.5)
配当が比準要素として機能していないのではないか、というのが国税庁の問題意識を醸成させています。
要因② 度重なる評価通達改正の累積効果
類似業種比準価額÷純資産価額が50%未満となる会社の割合は、通達改正ごとに以下のように推移しています。
- 昭和39年:49%
- 昭和47年:72%(しんしゃく率0.7導入)
- 平成12年:81%(利益比重見直し、しんしゃく率の中小会社拡大)
- 平成20年:82%
- 平成29年:82%
特に昭和47年のしんしゃく率導入と、平成12年の改正(利益比重の見直し=利益×3を分子に加えた上で分母を5に変更)によって、かい離が大きく拡大してきたことが分かります。
3. 評価通達が対応しきれなかった「操作可能性」の3課題
有識者会議資料で最も注目すべきは、「評価額の『操作可能性』の課題」として3つのスキームが具体的に図解されている点です。
国税庁がここまで踏み込んで「スキーム」と名指ししている点は、今後の規制強化の方向性を強く示唆していると考えられます。
課題① グループ法人税制(寄附修正)と評価差額の活用
100%支配のグループ法人内で、親会社→子会社→孫会社と資産を寄附で移転させるスキームです。
- グループ法人税制により、資産移転に伴う法人税負担は発生しない
- 100%支配のグループ内なので、同族株主は資産を完全に掌握し続ける
- 資産を移転していくことで、親会社の株式評価を減少させることが可能
- 当該資産を保有する子会社等で類似業種比準方式を採用すれば、さらに評価圧縮が可能
課題② 種類株式(無議決権株式)を用いた配当還元方式の濫用
組織再編等を活用し、創業者に無議決権株式を大量保有させて議決権割合をゼロにし、一部の孫株主に配当還元方式の適用を作出するスキーム。
将来的な普通株式への転換も想定されています。
課題③ 超過収益力分の社外流出
所有と経営が一致している非上場会社において、超過収益力分を役員報酬として社外流出させることで、配当・内部留保・純資産を圧縮し、評価額を大きく引き下げるスキームです。
4. 評価通達6項との関係──納税者の予見可能性
これまで、こうした行き過ぎたスキームに対しては、評価通達6項(この通達の定めにより難い場合の評価)に基づく個別の課税処分で対応せざるを得ない状況でした。
有識者会議資料では、評価通達6項の適用件数について次のデータが示されており、H27〜R6における10年間の累計適用件数は27件(うち不動産13件、株式14件)でした。なお、令和5年(2023年)の適用件数は11件であり、近年増加傾向にあることも読み取れます。
最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(いわゆる札幌マンション事件、民集76巻4号411頁)以降、評価通達6項の適用事例は増加傾向にありますが、日本税理士会連合会・日本公認会計士協会からは、いずれも「納税者の予見可能性の確保」を求める意見が出されています。
資料では、同判決の調査官解説(法曹時報75巻12号178頁)の「このようなかい離は、本来、評価通達の見直し等によって解消されるべきもの」という記述も引用されており、今回の見直しはまさにこの方向性に沿ったものと言えます。
▶ 次回、後編では、具体的な見直しの方向性や実務上ポイントとなりそうな点をまとめて解説します。
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※本記事は2026年4月22日時点の情報に基づいて作成しています。今後の有識者会議の議論の進展により、内容が変更される可能性がありますので、最新情報を随時ご確認ください。
具体的な税務判断については、個別事情に応じて税理士にご相談ください。