取引相場のない株式の評価 抜本的見直しの衝撃(後編)

2026年4月20日、国税庁において「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合が開催されました。
これは、昭和39年(1964年)の財産評価基本通達制定以来、約60年ぶりとなる非上場株式の相続税評価ルールの抜本的見直しに向けた動きです。
日本経済新聞の報道によれば、2027年度税制改正大綱への反映を経て、2028年(令和10年)1月以降の相続から新ルールの適用を目指すとされています。
中小企業オーナーにとっては、承継時の負担が大きく変わることも考えられるため、注目すべき論点です。
前回に続き、国税庁が公表した有識者会議の資料(2026年4月20日付)をもとに、見直しの方向性や・留意点を整理してみたいと思います。
5. 見直しの方向性──4つの基本的観点
有識者会議資料では、今回の見直しに当たっての「基本的な4つの観点」が示されています。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| ① 評価の公平性の確保 | 異なる規模区分の評価会社間での株式評価の公平性を確保 |
| ② 評価額の『恣意性・操作性』の排除 | 配当・利益・会社規模等の操作による株価圧縮スキームの排除。評価方式間のかい離による『評価額の”崖”』の解消 |
| ③ 実務・学術上の進展を踏まえた『今日的観点』 | 企業評価の学術研究・税務以外の企業評価手法の参考。継続企業前提での収益力反映。通達制定当時からの金利変動を踏まえた還元率の見直し |
| ④ 第三者への事業承継等の動向も踏まえた評価 | 近年のM&Aによる第三者承継の増加と、その際の企業価値評価を踏まえた検討 |
【参考】諸外国の評価アプローチ
資料では、米国・ドイツ・フランス・スイスの評価アプローチも紹介されています。
- 米国:インカム・ネットアセット・マーケットの各アプローチすべてを考慮(IRSマニュアル)
- ドイツ:簡易収益還元法等(マーケットアプローチは選択不可)
- フランス:数学的価値法、配当還元法、生産性価値法、キャッシュフロー法
- スイス:企業価値 =(2×収益価値 + 純資産価値)/ 3(KS28通達、州税)
実務上はDCF法が用いられることが多いという記載もあり、収益還元的なアプローチの導入が今後の論点となる可能性があります。
6. 実務家として考えておくべきこと(私見を含みます)
ここからは、税理士として実務で関与するうえで押さえておきたいポイントを、私なりの見解も含めて整理します。
■スケジュール感
- 2026年4月20日:有識者会議 第1回
- 2026年中:議論継続(座長:佐藤英明・慶應大大学院教授)
- 2027年度税制改正大綱に反映
- 2028年1月以降の相続から新ルール適用を目指す(日経報道)
■事業承継の前倒しという選択肢の検討
今回の見直しは、方向性として「評価額の引上げ」につながる可能性が高いと考えられます(あくまで見解です)。
現行評価ルールのうちに事業承継を完了させたい場合、2027年末までに贈与・譲渡・事業承継税制の活用等を検討するという選択肢があり得ます。
特に、令和9年(2027年)12月末までの期間は事業承継税制の特例措置が設けられており、期限的な観点からも重なる点には注意が必要です。
■見直しの範囲について
上記は原則論ですが、以下の点は必ずしも見通せず、現時点では推測の域を出ません。
- 新ルールが既存の持株会社スキームにどの程度遡及的に影響するか
- 株式保有特定会社・土地保有特定会社の判定基準が見直されるか
- 類似業種比準方式のしんしゃく率(0.7/0.6/0.5)が引き下げられるか
- 配当還元方式の還元率が10%からどの水準に変更されるか
- 配当比準要素の見直し(配当ゼロ会社への対応)が具体的にどのような形をとるか
有識者会議資料でも、「本日ご議論いただきたい事項」として、検討すべき問題点や各評価方式への意見を幅広く求めるスタンスが示されており、具体的な設計はまだこれからです。見切り発車で顧問先に「必ず増税になる」と伝えるのは避けたいところですね。
■関係団体からの意見にも注目
有識者会議資料には、関係団体から既に寄せられている意見もまとめられています。
特に純資産価額方式については「継続企業を清算前提で評価するのは不適切」「評価額が過大」といった納税者側に有利となり得る論点も提起されている点は見落とせません。
- 純資産価額方式について:「清算前提の評価方法であり継続企業の評価として相応しくない」「退職給付債務・資産除去債務等を考慮し一定の控除を」
- 類似業種比準方式について:「しんしゃく率を中会社・大会社でも50%に引下げを」「非経常的損失や資産移転の恣意性への対応を」
見直し=必ず増税、というわけでなく、「かい離の解消」という文脈では、両方向の調整がありうることも念頭に置く必要があります。
■考えが甘くなりがちな点
私自身、今後の顧問先との会話では以下の点について注意しなくてはいけないと考えています。
- 新ルールの詳細が未確定のうちに方針を固めることのリスク
- 改正前に駆け込みで贈与」が常に最適解ではないということ(後継者の経営能力、遺留分、納税資金、家族関係など総合判断が必要)
- 現行スキームへの「駆け込み節税」の推奨は、評価通達6項の適用リスクを高める可能性があること(最高裁令和4年判決の射程)
7. まとめ
今回の見直しは、単なる技術的修正ではなく、昭和39年以来の非上場株式評価ルールの抜本的改正となる可能性があります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 確認済み情報 | 会計検査院の指摘内容(R5決算検査報告)/国税庁による再検証結果/有識者会議の開催とスケジュール/過去の通達改正経緯/諸外国の評価アプローチ |
| 一般的な実務慣行 | 事業承継税制の活用/評価通達6項適用事案の存在/類似業種比準方式と純資産価額方式のかい離は従前から実務上認識されていた事項 |
| 推測・見解 | 見直し後は全体として評価額が上昇する可能性が高い/ただし純資産価額方式側の調整余地もあり、一律に増税とは限らない/2027年末までの駆け込み贈与は一定の検討価値はあるが、6項リスクとのバランスが必要 |
| 不明点 | 新ルールの具体的な計算式/遡及的影響/還元率の具体水準/しんしゃく率の改定方向/特定の評価会社区分への影響 |
顧問先への情報提供においては、「変わる方向性は見えてきたが、具体的な制度設計はこれから」という現在地を正確に伝えることが大切ですね。
今後、有識者会議の議論が進むにつれて、より具体的な論点が見えてくるはずです。引き続き動向をフォローし、適時情報発信していきたいと思います。
事業承継のご相談は以下より承っております。
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【参考】
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料」(2026年4月20日) https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260420/pdf/01shiryo_kabukaigi.pdf
国税庁「『取引相場のない株式の評価に関する有識者会議』の開催について」(2026年4月16日)https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/pdf/kaisai_kabukaigi.pdf
会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章 第4(2024年11月6日) https://report.jbaudit.go.jp/org/r05/2023-r05-0654-0.htm
日本経済新聞「非上場株の相続評価、2028年1月から新ルール適用へ 有識者が初会合」(2026年4月) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD201V60Q6A420C2000000/
最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(民集76巻4号411頁) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-91105.pdf
日本税理士会連合会「令和8年度税制改正に関する建議書」 https://www.nichizeiren.or.jp/nichizeiren/proposal/taxation/
※本記事は2026年4月22日時点の情報に基づいて作成しています。今後の有識者会議の議論の進展により、内容が変更される可能性がありますので、最新情報を随時ご確認ください。
具体的な税務判断については、個別事情に応じて税理士にご相談ください。