年収の壁が103万円から178万円へ。「物価スライド制」を正しく理解する。

前回の記事に続き、年収の壁改訂について(前回の記事はこちら)
年収の壁が178万円に引き上げられたことは広く知られてきましたが、「この数字が今後も変わり続ける」という点はあまり理解されていません。
令和8年度改正で導入された「物価スライド制」の仕組みと、実務上の注意点を解説します。
■ これまでの基礎控除は30年以上「据え置き」だった
所得税の計算で全員が使える「基礎控除」は、平成の初め頃から令和元年分まで約30年以上にわたって38万円で固定されていました。
その後2020年(令和2年)に48万円に改定されましたが、それ以降も物価が上昇する中で据え置かれたままでした。
物価が上がっても控除額が変わらなければ、実質的な税負担は重くなり続けます。
■ 物価スライド制とはどういう仕組みか
今回の改正で恒久的な制度として創設されたのが「物価スライド制」です。
基礎控除の本則部分と給与所得控除の最低保障額について、直近2年間のCPI(消費者物価指数・総合)の上昇率に連動して、2年ごとに見直す仕組みです。
【見直しサイクル】
| 見直しサイクル | 参照するCPI期間 | 適用年分 |
|---|---|---|
| 第1回(今回) | 令和5年11月〜令和7年10月(上昇率6.0%) | 令和8・9年分 |
| 第2回 | 令和8年〜令和9年のCPI | 令和10・11年分 |
| 以降 | 同様に2年ごと | 順次 |
今回は直近2年のCPIが6.0%上昇していたため、基礎控除の本則が58万円から62万円(+4万円)、給与所得控除の最低保障額が65万円から69万円(+4万円)に引き上げられました。
■ 「178万円」は令和8・9年だけの特例を含む
ただし現在の178万円という水準は、物価スライドの恒久部分だけで到達した数字ではありません。
三党合意を踏まえた令和8・9年限りの時限措置(上乗せ特例)を含んでいます。
令和10年以降の壁がどこになるかは、その時点のCPIと次回の税制改正によって決まります。
※物価スライド制はCPIが下落した場合も適用されます。物価が下がれば控除額も下がる可能性があります。
■ 実務への影響:毎回の改正を都度確認する必要がある
物価スライド制の導入により、基礎控除等の金額は2年ごとに変わり得る前提で実務を組む必要があります。
具体的には、給与規程の課税最低限に関する記載の見直しや、パート従業員への説明内容の更新が、今後定期的に必要になります。
また、年末調整のシステム設定や給与計算ソフトのアップデートにも注意が必要です。
■ まとめ
「178万円になった」という事実だけでなく、「今後も定期的に変わる制度に変わった」という構造的な変化を理解しておくことが重要です。
税制改正の内容は複雑になる傾向があります。ご不明な点はウィルライトへお気軽にご相談ください。
参考:財務省