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自社株評価の基本──「いま動くか」を腰を据えて考えるために

自社株評価の基本──「いま動くか」を腰を据えて考えるために

事業承継を検討する経営者が最初に直面する論点、それが自社株の評価額です。
第1回でも触れたように、自社株の評価額は相続税・贈与税の負担額を決める出発点であり、ご自身の感覚と実際の評価額が大きくズレているケースが多くあります。

最近、自社株評価について気になる動きがあります。会計検査院の指摘を受け、評価通達の改正可能性が議論されているのです。「改正されれば評価額が上がるかもしれない」「いま動いたほうが得かもしれない」──そんな声を耳にすることも増えました。

ただ、税理士として申し上げたいのは、「改正の可能性がある」という理由だけで事業承継を急ぐのは、本来の事業承継の姿ではないということです。

この記事では、自社株評価の基本を整理したうえで、「いま動くか、いつ動くか」をどう考えるべきか、そしてDXによって何が変わったのかを解説します。


自社株評価の基本──2つの評価方式の概要

非上場株式の評価方式には、大きく分けて2つあります。

①類似業種比準方式 事業内容が類似する上場会社の株価を基に、評価会社の配当・利益・純資産の3要素を比準して株価を算出する方式です。業績が株価に直接反映されやすいのが特徴です。

②純資産価額方式 評価会社が保有する資産・負債を相続税評価額で評価し、純資産額を発行済株式数で割って株価を算出する方式です。保有資産(特に不動産)の含み益が株価に反映されやすいのが特徴です。

実際の評価では、会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、この2つの方式を組み合わせて使います。大会社は類似業種比準方式100%、小会社は純資産価額方式100%が原則で、中会社はその間の併用となります。

会社規模類似業種比準方式純資産価額方式
大会社100%0%(または併用)
中会社の大90%10%
中会社の中75%25%
中会社の小60%40%
小会社0%(または50%)100%(または50%)

※株式保有特定会社・土地保有特定会社など、特定会社に該当する場合は別途の評価方式が適用されます。

どちらの方式が適用されるかによって、株価対策の方向性はまったく違います。類似業種比準方式の比重が高い会社は「業績のコントロール」が、純資産価額方式の比重が高い会社は「資産構成の見直し」が主な対策になります。

なお、評価のタイミングは、原則として課税時期(贈与日・相続発生日)における時価です。ただし実務上は、財産評価基本通達の便宜的な取扱いにより、直前期末の数値を用いて評価することが認められています

改正動向はあるが、「駆け込みの承継」は本筋ではない

ここで、最近話題になっている改正動向について触れておきます。

会計検査院は令和5年度決算検査報告で、取引相場のない株式の評価について、評価方式間の乖離が大きい点を指摘し、国税庁に是正を求めています。これを受けて、評価通達の改正が行われる可能性が議論されています。改正があれば、現行より評価額が上がる方向の見直しになる可能性が高いとされています。

詳細は過去記事「取引相場のない株式の評価 抜本的見直しの衝撃」をご参照ください。

ここで、私が経営者の方にお伝えしたいのは、改正の可能性があるからといって、事業承継を急ぐべきではないということです。

事業承継は、本来3〜5年の準備期間をかけて行うものです。後継者育成、株価対策、資金準備、社内外の関係者調整──どれも、改正の発表から逆算して数ヶ月で整えられるものではありません。

整理してみます。

「いま動く」が正しいケース

  • すでに後継者の育成が進んでいる
  • 株価対策・資金準備も整っている
  • 関係者との合意形成も済んでいる
  • もともと近いうちに承継を実行する予定だった

このような会社であれば、改正の可能性を踏まえて「予定を前倒しで実行する」のは合理的な判断です。

「焦って動く」のは違うケース

  • 後継者がまだ決まっていない、または育成が途上
  • 株価対策をこれから検討する段階
  • 承継の方針自体がまだ固まっていない
  • 改正の話を聞いて、初めて承継を意識した

このような段階で、改正の可能性だけを理由に駆け込みで承継してしまうと、後継者の準備不足、資金繰りの混乱、税務上の否認リスクなど、別のリスクを抱え込むことになります。目先の税負担を抑えるために、会社そのものの将来を危うくしては本末転倒です。

しかも、改正は確定情報ではありません。改正されるか、いつされるか、どう改正されるかは、現時点では不明です。不確実な情報を理由に、確実なリスクを取りに行くのは、合理的な経営判断とは言えません。

「改正があってもなくても、事業承継の本筋は変わらない」──まずはこの認識を共有させてください。

では何をすべきか──「準備の質」を高める

改正動向を踏まえて経営者がすべきことは、駆け込みではなく、本来の準備の質を高めることです。

具体的には、次のような取り組みが考えられます。

  • 自社の現在地(株価・業績推移・資産構成)を把握する
  • 承継の選択肢(親族内・従業員・M&A)を並列で検討する
  • 株価対策の方向性を、複数年単位で組み立てる
  • 後継者の育成計画を具体化する
  • 万が一の相続発生時にも対応できる体制を整える

これらは改正があってもなくても、事業承継を進めるうえで必要な準備です。改正動向は、こうした準備を「少し前倒しで着手するきっかけ」として捉えるのが、健全な向き合い方だと思います。

そして、こうした中長期の準備において、DXがもたらした変化は大きいものがあります。

DXがもたらした変化──準備の「質」を高める6つの側面

クラウド会計の普及とAI技術の発展により、事業承継準備のあり方は変わってきました。ただし、その本質は「意思決定を速くする」ことではありません。準備の質を高め、検討材料を揃えやすくすることにあります。

①承継の選択肢を、精緻に比較できるようになった

親族内承継・従業員承継・M&A──それぞれのシナリオで、税務・財務インパクトを精緻に試算し、並列で比較できるようになりました。従来は工数の制約で「とりあえず親族内で進める」と決め打ちしがちでしたが、いまは複数の選択肢を冷静に検討する余地が広がっています。

②株価対策の効果検証が、継続的にできるようになった

役員退職金、組織再編、生命保険活用など、株価対策を実行した後の効果を継続的に追えるようになりました。「対策しっぱなし」ではなく、「対策→効果検証→次の対策」のサイクルを回すことで、複数年単位の対策の質が上がります。

③後継者の経営参画を、データで支援できるようになった

クラウド会計のダッシュボードで、後継者が日々の数字を継続的に見られる環境が整います。先代の「経験と勘」を、後継者がデータで補完しながら学んでいく。後継者育成期間中の学習効率が、大きく変わります。

④顧問税理士との情報共有が、密になった

月次でデータが揃うことで、税理士が継続的に株価動向・財務状況を把握できます。「年1回の決算後にしか相談できない」から、「必要なときに相談できる」へ。中長期準備において、相談の頻度と質が高まる意味は大きいです。

⑤M&A時の対応力が、高まった

将来的にM&Aの選択肢を選ぶ場合、クラウド会計でデータが整っていれば、デューデリジェンス対応が圧倒的にスムーズです。「いつでも選択肢を取れる状態」を維持できることは、経営者にとって安心材料になります。

⑥相続発生時の即応性が、上がった

突発的な相続発生時、クラウド環境であれば相続人や顧問税理士が即座に状況を把握できます。紙の帳簿・PCローカルのExcelでは把握まで数ヶ月かかることもありますが、その負担を大きく減らせます。

まとめ:検討材料は早く揃う、だからこそ腰を据えて考えられる

第1回でも触れた「DX時代のスピード感」について、DXによって速くなったのは、検討材料を数字で揃えるスピードです。
意思決定そのものを急ぐべきだ、という話ではありません。
むしろ、検討材料が早く揃うからこそ、「いつ動くか」を腰を据えて考えられる
これがDX時代の事業承継準備の本質だと思います。

評価通達改正の動向は、確かに気になるニュースです。ただし、改正の可能性だけを理由に駆け込みで動くのではなく、本来の中長期準備を着実に進めること。準備が整った段階で、その時々の制度動向を踏まえて最適な判断をすること。これが事業承継の本来の姿です。


ウィルライトの自社株シミュレーションサポート

ウィルライトでは、クラウド会計データを活用した自社株評価のシミュレーション、承継選択肢の比較検討、そして中長期の承継計画策定までを一貫してサポートしています。

「うちの会社の場合、いま何を準備すべきか」を整理したい経営者の方は、お気軽にご相談ください。

▶ ご相談はこちらhttps://willight.info/contact/


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※本記事は2026年5月時点の情報に基づいて作成しています。
具体的な税務判断については、個別事情に応じて税理士にご相談ください。

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