今さら聞けないEBITDA ~その歴史から最新の議論まで、税理士がやさしく解説~

EBITDA、聞いたことはあるけど…
M&Aの検討や銀行との融資交渉の場面で、「EBITDA(イービットディーエー/イービッダー)」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
「あなたの会社はEBITDAの何倍で売れますよ…」 「EBITDAベースの債務償還年数で見ると……」
事業承継やM&Aの現場では、もはや共通言語になっている指標です。
一方で、世界に目を向けると、いまこのEBITDAの「信頼性」を巡って大きな議論が起きています。
この記事では、EBITDAの基本から歴史、実務での使いどころ、そして最新の議論まで、できるだけ専門用語を使わずに解説します。
EBITDA、聞いたことあるけどよく分かっていない状態、からは今日で卒業です。
是非、最後までお付き合いください。
1. EBITDAとは?
EBITDAは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization の頭文字をとった言葉です。
直訳すると「利息・税金・減価償却費を差し引く前の利益」となります。
実務では、次の簡便な式で計算するのが一般的です。
EBITDA ≒ 営業利益 + 減価償却費
なぜ、わざわざ利息や税金や減価償却費を「足し戻す」のでしょうか。
理由はシンプルで、これらが「事業そのものの稼ぐ力」とは別の事情で決まる費用だからです。
- 利息 … 借入が多いか少ないかで決まる
- 税金 … 国・地域や、繰越欠損金の有無で決まる
- 減価償却費 … 過去にいつ・いくら設備投資したか、どんな償却方法を選んだかで決まる。しかも今お金が出ていくわけではない「非現金支出費用」
これらのノイズを取り除き、「この会社は、商売そのもので毎年どれだけ稼ぐ力があるのか」 をざっくり掴むための指標——それがEBITDAです。
2. EBITDAの歴史 〜「借金で会社を買う人たち」が生んだ指標〜
EBITDAは、学者が考えた理論ではなく、実務の必要から生まれた指標です。
起源としてよく語られるのは、1970〜80年代の米国ケーブルテレビ業界です。
当時のケーブルテレビ会社は、ケーブル網の敷設に巨額の設備投資が必要で、減価償却費が重く、会計上はずっと赤字でした。
ところが、毎月の利用料収入は極めて安定しており、借金を返す力は十分にあったのです。そこで経営者たちは、銀行や投資家にこう訴えました。
「会計上の利益ではなく、償却前の稼ぐ力を見てくれ」
この説得の道具がEBITDAでした。
その後、1980年代の米国でLBO(レバレッジド・バイアウト=買収先の将来収益を返済原資に、借金で会社を買う手法) が大流行すると、「いくらまで借金を背負えるか」を測るものさしとして一気に定着します。
つまりEBITDAは、もともとM&Aと融資の世界の言葉なのです。
今でもM&A・買収ファイナンス・金融機関の与信審査でEBITDAが標準語になっているのは、この出自によるものです。
3. EBITDAの使いどころ
実務でEBITDAが活躍する場面は、大きく3つあります。
① M&Aの値決め(企業価値評価)
M&Aの世界では、「EV/EBITDA倍率」——買収価格がその会社の稼ぐ力の何年分にあたるか——という考え方で価格の目線を合わせることがあります。
中小企業のM&Aでは「EBITDAの3〜5倍+ネット現預金」といった相場観で語られることが多いです(あくまで市場の慣行で、業種や規模によって大きく変わります)。
国や会社ごとの税率・金利・償却方針の違いを除去できるため、会社同士を比較しやすいのがEBITDAの最大の強みです。
② 銀行融資・借入余力の判断
金融機関は、「債務償還年数 = 借入金 ÷ EBITDA(または簡易キャッシュフロー)」 という指標で「この会社は何年で借金を返せるか」を見ています。
一般に10年以内が一つの目安とされます。事業承継に伴う株式買取資金の借入や、設備投資の融資審査で、必ず登場する考え方です。
③ 設備投資が重い業種の「実力」把握
製造業や運送業のように減価償却費が大きい会社は、営業利益だけを見ると稼ぐ力を過小評価しがちです。
償却前のEBITDAで見ることで、事業の実態に近い姿が掴めます。
また、日本の中小企業特有の事情もあります。
法人税の世界では減価償却は任意(償却限度額の範囲内)のため、赤字を避けたい会社が「今期は償却を止めて黒字に見せる」ことが現実に起こります。
EBITDAは償却費を足し戻すので、この種の「お化粧」を自動的に剥がすことが可能です。
「償却前利益」に似た考えということもあって、金融機関がEBITDAを好む理由のひとつとなっています。
4. 最新の議論 〜AI時代、EBITDAの「弱点」が露呈〜
ここからが本題です。
いま世界では、EBITDAの信頼性を揺るがす大きな議論が起きています。
その舞台は、AI業界です。
巨大IT企業の「爆買い」
GoogleやMicrosoft、Amazonといった巨大IT企業は、AI開発のために専用コンピューター(GPU)と データセンターを猛烈な勢いで買い込んでいます。
その規模は、主要4社合計で年間数十兆円。各社のAI関連資産は今後さらに積み上がる見込みで、それに伴う減価償却費は、各社の利益を左右する最大級の費用に育ちつつあります。
ここで思い出してください。EBITDAは「減価償却費を無視する」指標です。最大の費用を無視する指標に、もはや意味があるのか?
この疑問が、議論の出発点です。
「耐用年数」を巡る大論争
2025年11月、映画『マネー・ショート』のモデルとして知られる投資家マイケル・バーリー氏が、自身のX(旧Twitter)への投稿(@michaeljburry、2025年11月10日)で、こんな趣旨の批判を展開して話題になりました。
「AI用のコンピューターは技術進化が速く、2〜3年で時代遅れになる。なのに巨大IT企業は『5〜6年使える』という前提で減価償却している。費用を少なく見せて、利益を水増ししているのではないか」(投稿内容の趣旨を筆者が要約)
さらに同氏は、同じX投稿および自身の発信媒体(Substack「Cassandra Unchained」)で、業界全体で2026〜2028年に約26兆円規模(1,760億ドル)の費用が過少計上されるとの独自試算を主張しています(※あくまで同氏個人の推計で、各社や半導体メーカーは「実際の使用実績に基づけば4〜6年は妥当」と反論しており、決着はついていません。なお同氏は関連銘柄の下落で利益が出る投資ポジションを取っていると報じられており、その点も割り引いて読む必要があります)。
注目すべきは、この論争の中で実際に各社の判断が割れたことです。
同じ技術環境にありながら、Amazonは2025年に耐用年数を「短縮」し、Metaは逆に「延長」しました。
——耐用年数とは物理的な事実ではなく、経営者の見積もりである——このことが白日の下にさらされたのです。
行き着いた先は「FCFを見よう」
この騒動を経て、投資家の関心は次のように移りました。
| 指標 | 見ているもの | AI設備投資ブームで何が起きたか |
|---|---|---|
| EBITDA | 商売そのものの稼ぐ力 | 最大の費用(償却費)が守備範囲の外にあり、知りたいことに答えられなくなった |
| 利益 | 会計ルールに沿った期間の成績 | 償却年数という「見積もり」次第で大きく動くため、信頼性が論争に |
| フリーキャッシュフロー(FCF) | 現金の出入りという事実 | ごまかしが効かない指標として、発言力が急上昇 |
実際に現金の動きを見ると、利益の立派さとは裏腹な実態が明らかになるケースが散見されるようになりました。
しかし、ここで大事なのは、EBITDAという指標そのものが「間違っていた」わけではないことです。
EBITDAは設備投資の負担が小さい、あるいは安定していて先が読める商売なら、今でも優れたものさしです。
問題は、「設備投資こそが最大の変数」という商売に、設備投資を見ないものさしを当てていたこと。
つまり、指標の優劣ではなく、使いどころのミスマッチが露呈したのです。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏は30年近く前から、EBITDA偏重をこう皮肉っていました。
「歯の妖精が設備投資のお金を払ってくれるとでも思っているのか?」
「歯の妖精」とは、欧米の言い伝えで、抜けた乳歯を枕の下に入れて寝ると夜中に妖精がお金と交換してくれる、という子ども向けのファンタジーです(日本で乳歯を屋根に投げる風習の欧米版ですね)。
つまりこの言葉は、「設備投資のお金が魔法のように湧いてくるとでも? そんなものは子どものおとぎ話の中にしかない」 という辛辣な皮肉です。
設備投資は実在するコストなのに、無いことにするな。この古典的な批判が、AI時代の多額な設備投資によって、いよいよ無視できなくなったというわけです。
5. つまり、分かりやすく言うと…
ここまでの話を、たこ焼き屋さんに置き換えてみましょう。
あるたこ焼き屋さんが、600万円の最新たこ焼き機を買いました。
会計のルールでは、600万円をその年に全部費用にするのではなく、「6年使える」と見積もって、毎年100万円ずつ費用にします。これが減価償却です。
このとき、3つの「ものさし」があります。
【EBITDA】= 機械代を無視したもうけ
「たこ焼きを売って、材料代とバイト代を引いたら、年300万円残る」これがEBITDA的な見方です。
たしかに、商売そのものの稼ぐ力はよく分かります。でも、機械代600万円のことは綺麗さっぱり忘れています。
【利益】= 機械代を「割り算」して引いたもうけ
300万円から毎年の機械の償却100万円を引いて、利益は200万円。これは一見正確そうです。
でも、もしこの機械が3年で型落ちしてポンコツになるなら、本当は毎年200万円ずつ費用にすべきで、実際の利益は100万円のはずです。
「何年で割るか」を店主が自分で決められる以上、利益は操作できてしまうのです。
【現金】= 財布の中身
機械を買った瞬間に、600万円は財布から消えています。
6年で割ろうが3年で割ろうが、出ていったお金は変わりません。一番ごまかしが効かないのは、結局これです。
ここで気づいていただきたいのは、3つのものさしは、そもそも測っているものが違うということです。
- EBITDA は「店主の商売の腕前」
- 利益 は「今年の成績表」
- 現金 は「財布の中身」
ひとえに「稼ぐ力」といっても、実力を見るのか、特定期間の成績を見るのか、手残りを見るのか、で変わってきます。
「健康」を把握するには、体温計と血圧計と体重計のどれが正確か、と聞いても意味がないのと同じで、どれが優れているという話ではありません。
3つ全部を見るのが正解です。
いま世界で起きているのは、この使い分けを間違えた話です。
巨大IT企業が買っているのは「数十兆円分の、何年もつか誰にも分からない最新たこ焼き機」。
この商売で一番知りたいのは「機械代を払ってもなお、手元にお金が残るのか」つまり財布の中身(FCF)で測るべき問いです。
ところが世の中は長らく、機械代を見ないものさし(EBITDA)でこの商売を測ってきた。
本来FCFで把握すべきものを、EBITDAで考えていた。そのズレが、ついに表面化したということです。
6. まとめ 〜大事なのは「ものさしの使い分け」〜
今回のAI業界の議論は、「EBITDAの欠点が露呈した」という話に見えますが、本質は少し違います。
「EBITDAという指標が悪いのではなく、EBITDAで測るべきでないものをEBITDAで測っていた」という使いどころの問題なのです。
整理すると、こうなります。
- EBITDAで見るべきもの:商売そのものの稼ぐ力。
会社同士の比較、M&Aの初期的な値決め、借入余力の目安。設備投資の負担が小さい、または安定していて先が読める商売なら、今も最良のものさしです - 利益で見るべきもの:会計ルールに沿った期間の成績。
ただし減価償却の前提(耐用年数)が設備の実際の更新サイクルと合っているか「利益の質」への目配りが必要です - FCF(現金)で見るべきもの:設備投資の負担が重く、更新サイクルが読みにくい商売の「本当に手元にお金が残るのか」という疑問。
ここをEBITDAで代用すると、実力を大きく見誤ります
ビッグテックに限らず、中小企業も同様です。
機械や車両の更新が定期的に必要な業種(建設・運送・製造・美容など)は、まさに「FCFで把握すべき要素が大きい商売」です。
M&Aや事業承継の場面で「EBITDAの○倍」という提案を受けたときは、その数字を否定する必要はありませんが、「設備の更新にいくらかかるのか」「機械代を払ってもなお、現金はどれだけ残る商売なのか」をあわせて確認する。このひと手間が、ものさしの使い分けです。
EBITDAも、利益も、現金も、それぞれ見ている場所が違うだけで、どれも会社の大切な一面を映しています。
問いに合ったものさしを選ぶこと。AI業界の数十兆円の論争が教えてくれるのは、結局このシンプルな原則なのだと思います。
主な参考情報
- Michael Burry氏(@michaeljburry)のX投稿(2025年11月10日) https://x.com/michaeljburry/status/1987918650104283372
- 同氏のSubstack「Cassandra Unchained」(1,760億ドルの過少計上試算等) https://michaeljburry.substack.com/
- CNBC「’Big Short’ investor Michael Burry accuses AI hyperscalers of artificially boosting earnings」(2025年11月11日) https://www.cnbc.com/2025/11/11/big-short-investor-michael-burry-accuses-ai-hyperscalers-of-artificially-boosting-earnings.html
- CNBC「The question everyone in AI is asking: How long before a GPU depreciates?」(2025年11月14日・NVIDIA側の反論を含む続報) https://www.cnbc.com/2025/11/14/ai-gpu-depreciation-coreweave-nvidia-michael-burry.html
本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。記事中の海外企業に関する数値・論争は報道等に基づくもので、今後の動向により状況が変わる可能性があります。個別の税務・M&Aのご判断にあたっては、専門家にご相談ください。
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